ある蒸し暑い夏の日。
「往人さん、トランプしよっ」
縁側で寝転がりながら涼んでいた国崎に、いつものように、観鈴がトランプを持って声をかける。
「暇じゃないんだ。一人で恋占いでもやってろ」
蚊でも追い払うかのような調子で、国崎が応える。
「わっ、往人さん冷たい」
「夏だからな」
それだけ言って、国崎は再び観鈴に背を向けて寝転がる。
「意味わかんないし」
本当に意味の分からない観鈴が、不満の声を漏らす。
「冬になったら、往人さん温かくなってやってくれるのかな? でも観鈴ちん、冬まで待てないなぁ……」
「やりたいな~、往人さんと遊びたいな~」
国崎の横で、観鈴が歌いだす。
夏の蒸し暑さもあって、段々イライラして来た国崎は、体を起こして吐き捨てるように、観鈴に言った。
「野球拳ルールならやってやるぞ」
「野球拳ルール?」
「ああ、野球拳だ」
「何それ往人さん? 面白いのかな?」
興味津々の観鈴の様子に、国崎は水をさすような口調で答える。
「俺とトランプをやって、負けたらお前が脱いでいくんだ。夏の暑い日にやると最高だぞ」
「…………」
ようやく黙り込んだかと思った国崎は、三度縁側に寝転がる。
「……あ」
何かに気づいたように、観鈴が声を上げる。
「野球拳ルールって、甲子園が夏にやるから?」
国崎が縁側から転がり落ちた。
<何だこりゃ?>