水瀬家の押入れには、思い出がいっぱい詰まっています。年末の大掃除の時に、押入れからアルバムが出てきたので、ちょっと大掃除を中断して、娘の名雪と一緒にアルバムをめくることにしました。
「わぁ、お母さんの小さい頃の写真だよ~」
私が赤ちゃんの頃の写真です。私はオムツによくお漏らしするいたずらっ子でした。その隣には、ぱんつ一枚だけでハイハイしている私の写真があります。ちょっと恥ずかしいです。
アルバムを見てみると、私の小さい頃はこんなに腕白な子供だったんですね。思い返すと、かけっこでも男の子とよく走ったりしていました。
「あ、これ運動会の写真だね。お母さんがブルマを穿いてる」
これは中学校の時の私の写真です。あの頃、私はリレーのアンカーを務めていました。かけっこはちょっと速かったんです。
「これは私が高校生の時の写真ですね。懐かしいわ……。クラスで一緒だった子たち、今どうしてるのかしら」
これは修学旅行に行ったときかな? どこに行ったの? あ、お母さんと男の人と手を繋いでるよ~。娘の歓声を聞きながら、私は少し感傷に浸ります。
「あ、お母さんが料理してる~」
割烹着姿の私の写真。その後、たしかいたずら好きのあの人が、私を驚かせようとして、後ろから抱き付いてきたんでしたっけ。あの頃は本当に楽しかったです。
「お父さんってどんな人だったの?」
名雪が聞いています。今はいないあの人のことを。
わたしは少し目を伏せて、あの人の姿を写真より鮮明に求めます。
「とても楽しい人でしたよ。やんちゃで、子供みたいで。でも優しい人でした」
アルバムには、あの人の撮った私の写真がいっぱいあります。でもあの人の写真は、数えるほどしかありませんでした。もっと撮っておけばよかったと……今頃になって思いました。
「あ、これ赤ちゃんだよ~」
アルバムの内容は、私から名雪の写真へと変わっていきます。あの人ったら、名雪ばかり撮っていましたから。私が名雪をあやしながら、おっぱいをあげている姿の写真まで撮られていました。いたずら好きのあの人らしいです。
「ここからは名雪のアルバムなのね」
あとは名雪の写真しかありません。あの人も私も、娘の写真の脇役です。
「ちがうよお母さん」
「?」
「”家族”のアルバム、だよっ」
名雪がはにかむような笑顔で言って、私もつられて笑ってしまいました。
「もうすぐ、祐一さんが来ますね」
「帰ってくるんだね……もうすぐ」
「名雪……」
「祐一といっぱいアルバムに写真を飾ろうね、お母さんっ」
子供の頃の祐一さんの写った写真を見ていた名雪が、精一杯の笑顔で言います。
「ええっ」
アルバムに、写真がもっともっと増えるといいですね。
【終】