奇跡の少女月宮あゆの存在は、世界中に知られることとなっていた。島国日本に天使の少女が舞い降り――彼女にまつわる話しは、世界中の人々を虜にし、感動の涙をもたらした。
そして、ある日。
好意的な振りをして、白人の男は彼女に近づいていった。
「スミマセーン。道が分からないのデスガ……」
「うぐ?」
そして……。
街外れの神社まで二人はやってきた。
「ここだよ」
「THANK YOU! おかげでタスカリマシタ」
だが……。
「HEY! 一緒にTAIYAKIでも食べない!? ギャヒャヒャヒャヒャ!」
「ふぇ?」
口の端から悪意が滴るような笑みを男は浮かべ……
「うっ……」
有無を言わさず、男は月宮あゆの腹部を打ち、気絶させて用意してあったワゴンに押し込んだ。
「……っ」
あゆが目を覚ます。
すると、目の前に、白人が4人ほどいた。
「…………?」
現状が認識できず、あゆが混乱する。
「……!」
あゆは、自分の手が縛られていることに気付いた。さらに猿轡まではめられている。
「GEHEHEHE。こいつがイエローのモンキーのクセに、奇跡だの起こした天使の女かよ?」
「ジャップが! 羽の生えたモンキーなんざ、我々は認めないのだよ。白人である我々こそが、唯一奇跡を享受できる存在なのだ」
「さすがモンキーだぜ! 我々文明国の文化もすぐにお得意のサル真似して、自分のもののように気取りやがる。我々の文化である天使までサル真似しやがるしな! 文化のないサル真似国家め!」
「お前ら東洋人は、羽の生えた神聖なる天使は似合わないのだよ。雲に乗ってるソンゴクウがお似合いなんだよ。ウッキーーってかぁ? GYAHAHAHAHA!」
男たちが月宮あゆを取り囲む。
「我々は教義にのっとり、東洋の島国に現れた異端の魔女を排除するためにやってきた。我々は認めない。サルに奇跡がもたらされること、サルが天使として振舞うことを。我々に導かれるべきサルが、奇跡を与え、我々を導く天使を名乗ることは許されない」
厳かに、リーダー格と思われる男が宣言する。
「~~~!?」
男たちがズボンを下ろし始める。
「ヒャーーーハハハハハハ! ニホンのイエローのキャブは初乗り運賃700円だったっけなぁ? こりゃ乗り放題だぜ! 朝まで飛ばしまくってドライブしまくるぜウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
こうして月宮あゆは、黄禍論を唱える白人至上主義者たちの毒牙にかかることとなった。
あゆの意識は、蹂躙の最中に、再び途絶えることとなった。
「…………」
犯されたショックで、あゆは呆然としていた。
そんなあゆに、まぶしすぎるくらいの光が差し込む。
「お目覚めかね、東洋の聖少女――いや、東洋の魔女よ」
司祭風の男の姿が、光で露になる。
「汝と姦通した者たちは、獣姦の罪で裁判にかけられることとなった。異教徒との姦通は罪であるためな」
「…………」
あゆの瞳に困惑の色が浮かんだ。
「これより、私が汝を魔女であるか審議する。汝は魔女であるとの疑いをかけられ、審議に伏されることとなった。光栄に思え。貴様のようなサルにも、我ら文明人は、裁判を受ける権利を保障するのだ」
「~~~~!」
じたばたと暴れはじめるあゆに、
「連れて行け」
司祭の男は、装束をかぶった大の男二人に運ばれていった。
「ふむ、処女であるか否かを調べるわけにもゆかぬ。娘を魔女であるか否かを審判するには……」
司祭の男は、しばし考え込んだ。
そして翌日になり、つれてこられたのは、大きな川の橋の上である。
「魔女であるかどうかを判定するために、貴様は聖なる川に投げ込まれる。もし、貴様が魔女でないならば、聖なる川は貴様に慈悲を与え汝を受け入れるだろう。もし貴様が魔女なら、聖なる川は邪悪なる貴様を拒み、裁きを下すだろう」
「~~~! ~~~!」
あゆは全身をしばられ、身動きが取れない。
「娘を」
司祭が手を下すと、男たちはあゆを川に放り込んだ。
「~~~~~~!!」
あゆの姿が、濁流に飲まれて消えていく。
そして数日後。
あゆの水死体が発見された。
「月宮あゆ、汝は魔女ではなかったことが証明された……おお神よ!」
男は涙を流していた。
彼女のこのエピソードが、悲劇としてさらに後世まで伝えられ、人々の涙をもたらすことになるのだった。
【終】